2006年3月23日

ちいさな家から見えるもの


ちいさな家には、ちいさな屋上があります。

空気の澄んだ季節、晴れた朝。
ちいさな家の、ちいさな屋上から見えるもの、
それは…



IMG_fujisan0001.JPG

富士山。

東京から富士山というのは、けっこう微妙な位置でしか、なかなか見られません。
ちょっとでも背の高い建物が建ってしまうと、見えなくなってしまいます。
そして、すぐに背の高い建物が建ってしまうのが東京です。

このちいさな家から、もしかしたら富士山が見られるかもしれないと思っていましたが、それはかなり微妙なところでした。建物と建物の隙間が、ちょうど富士山の場所にならないと見ることはできません。実際に見えるかどうかは、家を建ててみて、ちいさな屋上に立ってみないとわかりませんでした。あまり期待せず、でも、もしかして、もしかしたら見えるかも…。

ちいさな家は、富士山が見える位置にズバリ当たっていました。
もしも家の位置が少しでもずれていたら、見ることはできませんでした。

ちいさな家。
だけれど、今日も、いつでも、日本で一番高く美しく、おおきな山を、
この家から、ひとりじめすることができます。

子どもたち、大きくなったら、あの山に、登ろうね。


2006年3月19日

サヨナラおうち


IMG_sayonaraie0001.JPG今まで住んでいた家に、最後の確認に行く。

何もなくなったがらんどうの家を、キャーキャーと、くるくると、走り回るふたりの子どもたち。走り過ぎてすっ転ぶ。「うぇーーーん、いたいよぉー!!!」と大泣き。まったく、確認している間もない。ましてや感傷に浸る間もない。でも、こういう元気な子どもが欲しいと思ったのはかあちゃんだ。怒っても怒りきれない。いつものこと。

「もう、このおうちに来ないの?」「このおうちはどうなるの?」「誰が住むの?」と、アトムが急に真面目な顔で聞く。もうここには入れなくなるんだよ。この家は、いつもお菓子や本をくれたおばさんのおうちだからね。

鍵をかける。
「もう、入れないの?」と聞くアトム。
もう入れなくなるんだよ。

絶叫して、大泣きするアトム。新しいおうちを楽しみにしていたのに、今まで住んでいた家とのお別れはとても悲しいことのよう。泣く、泣く、泣く。おんおん泣く。
また、いつでも、このおうちが見たくなったら、かあちゃん、連れてきてあげるよ、約束するよ。

かあちゃんの心の中にいつまでも残っている自分のおうちは、5才の時まで住んでいた家だった。
サザエさんの家を少し小さくしたような感じ。木戸の門を入り、玄関をガラガラと開けて玄関土間から廊下に上がると、左に小さな和室、続いてまた小さめの和室と広めの和室。右手にはお風呂場、台所…。日当たりのいい縁側があって、芝生の広い庭があった。縁側でよくごはんを食べた。大きな桜の木が1本。裏庭には、3畳くらいあったかと思う犬小屋。いつも犬が遊び相手だった。そうだ、庭にはブランコもあった。
あの家にいたときが、一番幸せだったと思う。

アトムが産まれ、ウランが産まれ、あの一番幸せだった場所がどうしても見たくなった。でも、子どもをふたり連れていてはなかなか見に行けない場所だった。だけど、かなりの苦労をして、ついに、その場所へ去年、子どもたちを連れて、行った。

当然、その場所に、もうその家はなかった。庭もなかった。桜の木もなかった。
少し離れた場所にあった桜の木、これがあの私の庭から移植されたものであって欲しいと思った。
木の幹がふたまたに…そう、ちょうどこのへんで分かれていた木で、またがってよく遊んだんだ…この木、似ているだけなのかな? あの木なのかな。よく分からなかった。

家とも庭とも犬ともお別れになった。あのとき、悲しかった。
かあちゃんも、少しアトムの気持ちがわかるよ。

この画像は、その、子どものころに住んでいた家のあった場所に去年行ったときに撮ったもの。少し離れた場所に移植されたのかもしれない、満開の桜の木。
あの家を離れてからも、あの家を忘れてしまっていた間も、毎年毎年、この木は花を咲かせていたのか。この木だけが、かあちゃんの子どもの頃を知っているのか。今年も、かあちゃんの知らない間に、桜の花は咲くのか。

これは、かあちゃんにとって、この世で一番悲しい風景だ。


IMG_sakura0001.JPG


2006年3月18日

井戸水生活


「水が合わない」」ってよく言う。
地方から出てきた人がまず最初に言うことは、「東京の水が合わない」なんじゃないかと思う。

水質検査を受けてから井戸水を使うつもりだったので、この家ではまず水道水でスタート。
水が、手が切れるほど冷たい。お風呂に入ると、出たあとに体中の肌がカサついて、それが結構つらいものがある。それになんだかいくらお風呂に浸かっても寒くてしょうがない。そんなに遠くに移動してきたわけじゃないのに水が違うのかな…? なんか塩素の量とかが地域によって濃くなったりでもするんでしょうか?

工務店さんが、水道の配管がうまくなかったということで、工事に来ます。水道水と井戸水をバルブの明け閉めで切り替えられるように頼んでおいたのですが、それがちょっと違うように配管されていたよう。水質の悪化や、万一、井戸が枯れた場合には水道水にできるように考えてあったのです。水質検査の結果がオーケーなら、井戸水を使うということで。

「井戸水が使えるようになりますから」と言いながら、配管工事の作業をしているおじさん。
さぁ、あとは、水質検査を受けて、よければ切り替えて井戸水生活だ!

しかし、その夜、お風呂に入ると、
「あれ? 違う」。
昨日までと違う。お湯がまろやか。それに、あったまるような…。水圧もちょっと下がってる。これはもしかして…。
検査の結果が出るまで水道水で生活するつもりだったのが、井戸水が流れる方のバルブを工事のあと開けてあったのです。
思ったよりも早く、井戸水風呂を体験。
まいっか。
近所の人たちもずっと使っている井戸水なんだし。

お湯をなめてみます。
「あまい…?」
甘いんです。井戸水。
水が甘いというのは、正直、初めて思いました。いろいろな温泉にも行って、結構お湯をなめてきたのですが、温泉地のお湯は苦いことが多い。甘いというのは…。ほ、ほ、ほたる来いって感じ?

お風呂上りも、それまでのカサカサ感やピリピリ感も残らず、潤っているような…つるつるすべすべしているような。すごく違う。湯冷めもしない。いつまでも体があったかい。水を出しても手が切れるような冷たさを感じることもない。いやホントに違うんだなぁ…。なんなんだろうこれは。なんでこんなに違うんだろう井戸水。

翌朝、気をよくして、井戸水でお茶を入れてみます。
「……おいしいけど…ちょっと臭いがあるような気も…」。
昨日、お風呂でなめた水と少し違うような気がします。
どうしたらいいんだろう、沸騰させてから使うとかすればいいのかなぁ…?

そしてまた、夕方、お風呂に入ってみます。やぁ、やっぱりあったまる。
また、なめてみます。
やっぱり…甘い。
おかしい、朝入れたお茶の水と、味が違う?

あ! 井戸水って、朝の水と、夕方の水と、味が違うんだ!
なんでかな、ポンプに汲み上げている水を朝は使うことになって臭みが出てしまうのかな?
それとも、自然界の水は、時間によって味が変わるものなのかな。
朝は、しばらく水を流してから使うといいのかも。
そういえば、おいしいラーメン屋さんは、朝の水はマズイから、5分間くらい水を出してからスープに使う水を取るって言うしね。
うーん、一日の中で味が変わるのか? 井戸水…。

こんどは、朝、しばらく水を流してから汲んで、コーヒーをいれてみます。
う。うまい。
こんなにまろやかな味のコーヒーって、しばらく飲んだことなかった。
コーヒー専門の店で飲むようなコーヒーの味。
舌に刺さるような感じが全然なくて、口のなかがほわっと包まれるような。

井戸水でご飯を炊いてみます。
「おいしい、おいしい」と言って、ご飯ばかり食べて三杯もおかわりしたアトム。
小食のアトムがこんなにご飯を食べるなんて、初めて…。
今までのご飯は、なんだったんだろう?

これからどうなる井戸水生活。


2006年3月16日

ガルバリウムに雨は降る


 低気圧が発達しながら本州を通過する影響で、近畿や東日本では17日にかけ、風雨が強まり、大気も不安定になって大荒れの天気になるとして、気象庁は16日、注意を呼び掛けた。

asahi.com:Yahoo!ニュース - 共同通信 - 近畿、東日本で大荒れに 突風や落雷の恐れ

IMG_ame0001.JPGガルバリウムのこの家に来て、初めての雨。
「春雨じゃ、濡れていこう」なんて言葉とはウラハラの、梅の花びらを散らす雨。

予想はしていたことだけれど、ガルバリウムの屋根に落ちる雨は、トツトツ、トツトツと、にぎやか。
こういう音を、イヤな人は嫌なのだろうけれど。嫌いじゃない。
今までは瓦屋根の家にいたから、雨が降っても、降ってるんだか降ってないんだか、家の中にいるとよくわからなかった。でもね、もう雨! 雨なんだよ! 降ってんだよ! ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらんなんだよ! 蛇の目でお迎え嬉しいななんだよ!
家中に響き渡る雨音。

「雨音」とは、よく言ったもんだね。聞いていると、強くなったり、間が空いたり、リズムが早くなったり、まるで自然が奏でる音楽のようだね。ショパンの調べってか。

そういえば、こういう音を、めっきり聞かなくなった。マンションでは聞かない、ショッピングするデパートやオフィスでも聞かない。聞いてごらんよ、雨の音を。体の中や心の中まで洗い流されちゃって、リセットされるようだね。

屋根裏はロフトにしたので、本来は防音する役目の屋根裏もありません。でも、そんな雨音の中、いつもよりも早く、ことんと眠ってしまった子どもたち。雨の音って、不思議だね。


2006年3月14日

パンダがいっぱい


IMG_kaidan0001_1.JPGいやーはっはっは。お風呂が広いっていいもんですねぇー。ちと寒いけどねーははは。なんで家狭くなってんのにお風呂広くなってんのかなーははは。

家づくりぽい話でもしましょう。もうね、階段の下がトイレです。でも転んでもただでは起きません。良い子は転んだら拾って起きる。階段下のトイレに照明を仕込んで、夜は階段の足もとを照らします。階段の照明のスイッチをつけると、一緒にトイレの中の照明もつく仕組みです。ほーら足もとが明るいっしょ。ちょっとねーアクリル板の掃除がしずらいのがねー最後まで難点なんだけどねー。

で、階段を下まで降りると、なんということでしょう。
パンダがいっぱい。
もーどーしよー、この大量のパンダ。
IMG_kaidan0001.JPG


2006年3月13日

家は本当に生きているのかもしれない。


エアコンが壊れた。台所の蛍光灯が切れた。トイレの温水洗浄が壊れた。脱衣所の電球が切れた。洗面所の蛍光灯も切れた。ここ2週間ほどの間で起きたこと。

いま住んでいる古い借家は、宮大工がつくったという家。隣に住む大家さんの持ち物。
この家の電気製品が、この短い間に、ことごとく使えなくなった。
脱衣所の電球なんて、この間換えたばかりなのに、もう切れるなんて、オカシイ。

私たちが、もうこの家を出て行くから、「行くな」と、家が言っているのかな。
それとも、「早く行きなさい」と言っているのかな。
それとも、別れを惜しんでいるのかな。
不思議だね。いくつもの住家を引越ししたけれど、そこを離れる前って、必ずこんな風に電気製品が使えなくなっていく気がする。

もう、この家ともお別れ、この家の持ち主の大家さんの一家ともお別れ。
大家というと、インケンでアサマシイというのがありがちだけれど、ここの大家さんは違った。子どもたちに服をいっぱいくれたり、オモチャや絵本やお菓子もいろいろくれたり。元気いっぱいのウチの子どもたちを、「元気でいいね」と、ひとことも文句も言わずにニコニコといつも暖かく見守ってくれていた大家さん一家。ウランが産まれるときなんて、「クルマを出してあげる」「上の子を預かってあげる」と声をかけてくれたり、お祝いもくださったりした大家さん一家。

よく晴れた暖かな日。
子どもたちに、ちょっといい目の服を着せて、大家さん一家にお別れの挨拶に行きます。
少し寂しいけれど、そんなに遠くに引越すわけじゃない、また、いつでも会える。
子どもたちと手をつないで、大家さんのお宅の玄関に立ちます。
お別れは、笑顔で。晴れやかに。
さぁ子どもたち、にっこり笑って、いつものように、
「こんにちはー!」。

そこで私たちは知らされます。
この日の朝、大家さん一家のご主人が、
亡くなったことを。

この家を建てた大家さん一家のご主人。
この家は、私たちに「行くな」と言っていたんじゃない。「早く行きなさい」と言っていたんじゃない。ましてや、別れを惜しんでなんかいたんじゃない。
この家は…


この家は、
自分を建てた人との永遠の別れの時を知って、泣いていたんだ。


2006年3月11日

ワックス塗って また塗って 元気に陽気に バタンキュー


IMG_wax0001_2.JPG引渡しされた家の床にワックスを塗ります。

無垢のパイン材、そのままでは汚れが木に染み込んでしまいます。でもワックスを塗っておけば大丈夫。
とうちゃんが選んで用意したのは、『未晒し蜜ロウワックス』。いつも石鹸とかを購入している石鹸百貨さんにネットで注文したものです。蜜ロウとはまた、とうちゃんにしては、なかなかツウなのを選んできたものです。イヤなにおいもなくて、小さな子どもが触れても安心。荏ゴマ油も入ってるよ。

ワックスなんて、クルマのワックスしかかけたことがなかっただろうとうちゃん。一所懸命にスポンジで塗っています。アトムも一緒にワックス塗り。でも、まだ4才のアトムには、ワックスをうすーく塗ることなんてできないんだな。ムラになったのを、とうちゃんが修正して塗りつつ。IMG_wax0001_3.JPG

なにぶん電気製品が多いこともあって、コンセントがたくさん必要です。まだ電気屋さんがコンセントを付けています。「あっ、ここにつけてください」と直接電気屋さんと話しているとうちゃん。まぁ壁ないですから、どこにでもコンセント付けられる家ですから、もう自由自在にあちこち付けちゃっているわけです。棚の引き戸を開けるとコンセント。キッチンカウンターの下を覗くとコンセント。ああコンセントコンセント。

IMG_wax0001.JPGそうこうしていると、ヒノキの浴槽をお願いしている伊藤風呂店さんがやってきます。間に合わないので、浴槽が出来上がるまでの代わりのお風呂を持ってきたのです。
なんと、伊藤風呂店の奥様の手には、あの根津のたいやきが…。しかもあったかい! なんで? 根津からここまで1時間はかかるのに…。
「タオルにくるんできたから」と奥様。うわー、そういう心遣い、嬉しいですねぇ! 涙出そうです。いいんでしょうか、こんなにいろいろしてもらって…。

せっかくあったかいたいやき、早速いただく子どもたち。まだワックスを塗っていない床の上なので、汚れを落とさないように毛布を敷いて、いただきます!
家の中を走り回ったりいろんなところを登ったりしてさんざん大興奮した上にたいやきで、ますます興奮状態炸裂の子どもたち。

IMG_wax0001_1.JPG代わりのバスタブを入れていただくと、アラ不思議、バスタブがなかったときよりも広く見えるお風呂場。「実際に入れるお風呂はもっと大きいですよ」と、伊藤風呂店のご主人。うわー、期待、期待!

新しい家で大興奮して、日が落ちるとともに眠ってしまった子どもたち。
夜中まで、とうちゃんは、まだ何もない新しい家の中で、ひとり、家じゅうにワックス塗り。


2006年3月 7日

家の半分は、やさしさでできている