ある建売住宅
「この家がさ、柱がほーっそくてさ! ウチと同じ合板使ってるんだけど、合板にガタガタに釘が打ってあって雨ざらしになってて、合板がもう釘のサビだらけになっちゃってるんだよね。あんなの買うんなら、ウチの方がよっぽどいいよ」。
折込チラシを見て、とうちゃんが言う。
子どもたちを連れてよく遊びに行く公園の近くに建設中の家を、時々観察していたみたい。それができあがって、売りに出されたらしいです。6,500万円の建売住宅。立地はよくないけれど、まぁ、ありがちな3LDKの、ツルピカのシャレた風な1軒家。
「こうなっちゃうと、わかんないもんだね」。
とうちゃんなんか、自分が家を建てる前までは、道を歩いていたって家を観察したことなんかミジンもなかったクセに、結局自分で建築雑誌の1冊も買わなかったクセに、「家ができあがるまでは、しょっちゅう見にいくんだよ。見る人は毎日見に行ったりするんだから」と、土地を買う前にかあちゃんが言うと、「えー! 見に行ったりすんのー?」なんて言っていたクセに、よくまぁなんだかエラそうなことを言ってるもんです。
でも、その建売住宅、だれかが買うんだろうね、6,500万円払って。6,500万円っていったら、平均的なサラリーマンにはちょっと買えないかもっていう金額だよ。残業したり、スーパーの安売りの日だけに買い物に行ったり、「家を買ったから旅行はあきらめよう」なんて言ったり、奥さんが内職やパートしたり、そうやって、一所懸命に、ローンを返したりしていくんだろうね。サビだらけの、ほっそい柱の家と、その家を売ったデベロッパーのために。
なんかそういうのもイヤだから比べるわけでもないけれど、今ウチで建てている家は、雨が降りそうなら濡れないようにとシートをかけてもらい、柱に傷がつかないようにと養生してもらい、釘1本打つにも気を配って建ててもらってはいるよね。それはやっぱり、私たちあっての家だから、そうしてくれているのだろうね。設計の人やお金を出してる当人がしょっちゅう見に来ていたりして、やっぱり気を遣ってもらっているのだろうね。
でも建売住宅は特に、どこの誰が住むのか、売れるのかもわからないでつくっているものだし、早く建てて早く売らないとならないものなんだろうね。だから、お金も手間もかけてられないんだろうね。立地悪い、スカスカに立ってる細い柱、見えない壁の中は釘がガタガタでサビだらけ。でもべつに建築基準法違反じゃないんだろうし。通すところは通ってるわけで。
立地悪いのは仕方ないよね、いい土地は手放す人が少ないから、なかなか売りに出ないわけだもの。もしいい土地が出れば、先を争って不動産業者がとっとと買い占めてしまうわけで。だから土地を買って自分で建てるってことは、このへんではまず困難だよね。だから、建売住宅を買うのも仕方ないのかもね。だから、ウチは立地優先して、業者が手を出さない狭小地になったわけで。
で、この建売住宅、値引きとかして、そのうち買い手がつくんだろうね。この建売住宅を建てるために実際にかかっている金額って、いったいいくらなんだろうね。
画像は、ウチが建ててる家の、これまで経てきた数々の設計図面とか、あれやこれやと書き込まれたり線引かれたりした見積書とかを、そのつどファイルした束。
そうだね、あの建売住宅には、ないモノ。
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